屋 久 島 病 の 日 々
随時更新
マッチョなモッチョム
2002年2月11日(月) 雨のち晴れ
「雨」
明け方より、外で何かが当たっている音がすると、夢うつつに思っては
いた。が、まさか雨だとは思っていなかった。
雨だった。
音とは、車のボンネットに雨どいの隙間から雨粒がもれ落ちて当たる音
だったようだ。午前6時過ぎ、窓を開けると薄暗い朝の集落。空気を吸い
込む。海と山の風が肺に流れ込む気がする。路面が濡れている。しとしと雨。
昨夜の天気予報では曇りのち晴れとなっていた。なんてったって屋久島
なのに、なぜか今回は私の頭から雨降りの予測が抜けていた。まだまだ
甘い。
別に雨だからといって登山を中止する必要はないのだが、今回の初詣
旅の〆として登るモッチョム岳からの眺望を、できれば期待していた。雨
だと最初から望むべくもないではないか。
寝なおすかな・・・でも、あきらめきれない。うだうだしてる間に時間は
刻々と過ぎていく。私は限られた時間をここで過ごす旅行者なのだ。再
び外を見やる。・・・と、海側から晴れてきている。青空すら雲間から顔を
のぞかせている。ただし、山側には相変わらず灰色の雲が立ち込めて
いる。天気予報では午後から晴れマーク。山の天気には当てはまりに
くいが、これ以上崩れることはないかもしれない。
とりあえず、行くことにする。ほら、日の光も射してきた。自分に言い聞
かせながら、着替えてザックを手に取り、登山口のある千尋の滝に車を
走らせた。
千尋の滝展望所は標高300mあたりにある。モッチョム岳は標高944
m。距離的には大したことなさそうだが、見た目には大した感じだ。そのく
らい集落からは目だってそびえている。前回登った愛子岳(1235m)より
もきついという人も多い。登れるかなー?
千尋の滝に着いても雨は断続的に降り続く。途中で買った朝食の惣菜
パンを車内でもぐもぐやりながら、晴れるのを待ってみる。この時点でもう
登らないことは考えていない。晴れ間を待って、出かけるだけだ。
しかし、束の間日の光が射しても、またすぐフロントグラスは雨粒でいっ
ぱいになる。片道3時間強とふんで、休憩時間も含めて7時間強。多く見
積もって8時間。出発のタイムリミットを午前9時に置く。
「出発の時間だ!」
9時。出発の時刻だ。そぼ降る春の雨はなかなかぴたっとやんでくれな
いが、山の中に入ってしまえば葉っぱにさえぎられてそれほど濡れない
だろう。それに今、いわさきホテルの団体さんがバスを展望所ぎりぎりに
付けて、降りていった。この人たちが帰ってくる前に出たい。好奇の目を
向けられると、やはり多少うっとうしい。
定番の上下カッパスタイルで登山道へ。ガイドブックでは『いきなり急峻
な胸突き八丁の登り』となっている。確かに急だが、覚悟しているし、何せ
まだ登り始めで体力の問題もないので、、周りを見ながら行く。
小さな白い花たちが迎えてくれた。『サツマイナモリ』。何とか本と照らし
合わせる。隣では黄緑の新芽がりゅんりゅんとかわいらしい(名前わからず)。
今まで登った屋久島の山の感じとはなにか違う。巨大なシダ!みたいな
のや、大きい葉っぱがうねうね生えてたり、わさっと立ちはだかったりする。
なんというか、ちょっとジャングルっぽい。植物の名まえや特長を知らない
私は、こんな時にはガイドさんがいてくれたらなーっと思う。デジカメで撮
影したらすぐさま名前や特徴を教えてくれるモバイルが欲しい。名付けて
『草花ナビ』・・・構想(だけ)は広がる・・・。
でも、ひとりで山に入らせてもらう行為は素敵だ。山の自然にじっくり向
きあっているうちに、やがて山の子どもになれる気がする。
少しずつ高くなっていく。時折木々の間から海や尾之間の集落が覗く。
雑多な音が風に吹き上げられて届く。前岳の魅力を味わいつつ登った。
ヒメシャラもあちこちに立っている。この木は本当に目を引く。たくさん
立ってるのに、いつ出会ってもはっとさせられる美しさだ。赤い木肌は
すべすべで、ひんやりしてて、思わず頬をくっつけたくなる。
尾根をひとつ越えると苔のある沢に出た。苔だぁ。嬉しい!懐かしい。
どうやら私は苔のある風景に会いたかったようだ。背丈くらいの低木に
薄黄色の細かな花が少しずつ束になって咲いている(名前不明)。
喉を潤した。 そしてまた登る。
「万代杉はまだかな?」と先を思うのは、ちょっと疲れてきた証拠だ。
「万代杉とモッチョム太郎と雪」
万代杉に到着。ここまでモデルタイムでは1時間20分となっているが、
2時間近くかかった。風がよく当たる尾根に立っているため、幹がねじ
れている。根元のあたりが空洞化している。推定樹齢3000年。あっぱれ
だよなぁ。どうしてそんな長い長い時間、立ち続けていられるの?
もっとも、人間の尺度での『長さ』だけど。
「へえ〜、ほお〜」と仰いでいる途中で我にかえる。そうだ、時間だ。
まだ半分だった。
尾根から下ってまた登り始めると、モッチョム太郎がいるはずだ。
(屋久杉の名前である。)何度も書くが、先を思うのは、かなり疲れて
きている証だ。
いた!頭に緑の葉っぱをたくさんくっつけて立っている。万代杉とは
対照的にすっくとまっすぐだ。周辺の木々に囲まれた姿に、神秘的な
印象を受けた。10mほど下にあるので、すぐ側まで行かない人が多い
のだろう。
最後の水場で喉を潤す。
休んでいると体が冷えてくる。いつしか雨はアラレに変わり、ずっと
断続的にぱらぱら降っている。葉っぱに当たってはじけるのを見てい
ると飽きない。が、たたずんでばかりもいられない。登ろう。
ジャングルから、今度は雪景色が現れた!おほっ!嬉しい!屋久島
で積もってる雪を見るのは初めてだ。どうやら数日前の雪が溶けずに
残っている感じだ。突然のプレゼントにひとりはしゃぐ。
やっぱり屋久島ってすごい。きっと今頃集落では春の陽気であるはず。
尾根に出てしばらく行くと突然開けた。景色が遠くまで広がる。
「ここが神山展望台?」と思うが、確認できず。はるか向こうに頂上が
見える。まだまだな感じだ。モデルタイムではあと20分となっているけど・・・。
「最後の下りと登り&山頂!」
雪を見たからか(!?)、そこからスピードアップした。以前にも書いたが、
ふっと足が軽くなる瞬間があって、それがやっと来た感じだ。ありがたや。
予定時間は既にオーバーしている。頂上までだーーーーっと下って、
だーーーーっと登った。山頂がそこだとわかっているから歩けたのかもし
れない。風が轟音とともに吹き抜けていく。が、あまり気にせず登る。
ヤクザサをかき分けて抜け、ようやく山頂下のテラスに出た。頂上は眼
前にある3mほどの岩の上だ。ふふふ。楽しいぜ。上からたらしてあるロ
ープをぐいぐい引っ張って、大丈夫か一応確認する。(屋久島の登山道
にはロープをたらしてくれているところが多い。整備の手も頻繁に入って
いるのでまず大丈夫だろうが、用心に越したことはないのだ。)
湧きあがる笑みをかみころしつつ、頂上に出た。
「ひょー。すっごー!嬉しいー!!やったー!」
午後0時40分だった。
山頂は太陽が近くて案外暖かだ。ぽかぽか気持ちいい。・・・などと
思っていると風が『ごお〜っ!!』・・・こ、こわい・・・。
頂からは、海と集落が見渡せる。海は輝き、集落は春霞みの中で
ゆったりと横たわっているように見える。山、集落、海、空。そこは、
それらがひとつにつながっていることが、目に見える場所だった。
振り返ると標高の高い割石岳や雪岳もよく見えた(多分)。
『ぽかぽか』と『ごお〜っ!!』の合間を見計らって湯を沸かした。山頂には
周囲に膝上丈の灌木が生えているので、多少は風よけになる。あくまで多少は。
小鍋のふたがとばされた。あっという間に風にさらわれた。なすすべもない。
それでも湯を沸かしてワンタンスープを作り、おむすびと共に食す。その
うち、風が徐々に近付いてくるのを音で察知できるとわかり、タイミングを合
わせて周囲の物を押さえてみたりする。40分ほどで頂上を離れた。
「まぬけ」
が、肝心なことを忘れていた。今回は初詣に来たんだったのに、祠にお参り
するのを忘れてしまった。それを思い出したのは10分ほど下ってからであ
った。でも、あったっけ?石の祠・・・。うーん。戻ろう。(がーっ!)
またすたこら登って、石の祠があると書いてあったテラスになっているところ
に戻った。だが、それらしきものを見つけることができない。知ってそうな知
人に電話してみる。留守電・・・。ま、いいか。
とりあえず石が積み重なっているところがあったので、お参りした。午後2時。
再び下山開始。
尾根伝いに小1時間ほど歩いたあたりで、今日初めて登山道で人と出くわした。
若い男性2人。雪が降っているというのに簡易カッパ(透明ビニール)をズボン
の上からはいているだけの、軽装だ。よく見なかったが、靴もスニーカーっぽい。
それにしても今から山頂に向かうとなると、帰りはずいぶん暗くなるはずだ。
ちょっと心配になる。だが、いい大人二人組なので、特に声はかけなかった。
途中、月山のあかねずみさんからメール。あちらはどか雪のようだ。
帰りも3時間半ほどかかって、千尋の滝まで降りた。せっかくなので滝を眺める。
観光している人がいたが、入れ替わりにベンチに腰掛ける。(薄汚れてへろへろで、
ちょっと怪しかったかもしれない。)
やはり、体の底からじんわり喜びがこみ上げてくるのであった。
モッチョム(本富)岳の頂のあたりは、花崗岩があらわになっている。それは、
人々を見守る、力こぶのようでもある。「マッチョなモッチョム」なのだ(←ややこじつけ)。
帰りに入った尾之間温泉の熱い湯は、がんばった体に嬉しいごほうびであった。
夜。空には満天の星がまたたく。星明りで山が浮かび上がる。
やはり嬉しい贈りものだった。
(さて、私はこの日記の中で、何回嬉しいと言ってるでしょう?)
(続く)
万代杉 モッチョム太郎
雪の道 倒木に降る雪
MENU
山頂からの眺め 山頂からの眺め