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異次元蛇之口滝

2002年2月12日(火) 晴れ時々くもり

「迷う! 
 快晴。今日はお天気に心を砕く必要はなさそうだ。でも今朝もまた迷うところ
から始まった。迷っているのは行き先。いつもなら躊躇なく白谷雲水峡に向か
うのだが、かねてより気になってたところがあった。蛇之口ハイキングコース。
いつでも行けると思っていたら、いつまでたっても行けなかった。そして今に至
る。でも、白谷をぶっちぎるの?私。この時季、残雪の中を歩けるかもしれな
いよ。きっと人はほとんど通らず、独り占め状態になるよ。苔の緑に包まれなが
ら、沢の流れる音を聞く、あの時間を手放すの?・・・自分を誘惑してみた。
もちろんぐらつくけど、さほど動じない。よし、蛇之口滝に行ってみよう。

 蛇之口ハイキングコースは、尾之間温泉が出発点となる。宿泊場所が尾
之間なので車で3分とかからず到着。『ハイキングコースといえども油断禁物』
が定番の謳い文句ゆえ、ちゃんとトレッキングシューズで出かけた。出発前に
温泉脇の小さな祠にお参り。その土地に棲む神様にご挨拶するような、気軽
な感覚。

「探検気分」
 きのうのモッチョムもそうだったが、やはりジャングルっぽい。亜熱帯性の植
物が多いのだろう。ハイキングコースと銘うたれるだけあって、あちこちに説
明板が立っている。植物の解説文を読みつつゆっくり進む。
と、行く手からばさばさと草をかき分けるような音が聞こえてきた。
『バサッ』
犬だった。飼い犬のようだ。散歩の途中なのだろう。お互い突然目の前に動
物が現れたもんだから、しばし立ち止まってぼーぜんとする。はっと我にかえ
って「こ、こんちは」と言うのと(これも変)、あっちがきびすを返すのとが同時
だった。

 平坦な道をしばらく歩く。足取り軽く、まさにハイキング気分だ。きのうの登
山の疲れも出ていない。(後日しっかりやってくるところが悲しかった・・・。)
行く手で鳥たちが驚いてぱたばた飛び立っていく。きっと鳥好きの人ならな
かなか前に進めないだろうと思うくらい、次々と。

 それにしてもいい天気だ。木漏れ日キラキラで、平坦な道でも歩いている
とけっこう暑くなってくる。
 小1時間ほどで多少起伏の激しいところに出た。小刻みに登り降りすると、
汗がどっと出てきた。きのう雪が舞う中を歩いていたのが嘘のようだ。ム、し
かし、けっこうきついかも。
 
 苔むす岩が点在する沢に出た。今日は穏やかだが、雨降りの日などは、
岩を伝って渡るのに注意が必要になるだろう。それにしても、やっぱり苔の
ある場所はいいなぁ。沢の真ん中あたりの岩に腰を下ろしてひと休みしてい
ると、水の流れる音にくるまれていく。時間もさらさら流れ、気持ちもさらさら
と綺麗になっていく(気がする)。白谷にこだわる必要はなかったなと思う。
今まで旅ごとに必ず足を運んでいたし、これからもしばしば訪ねるだろうけ
れど、今日はここに来て、嬉しい気分でいられる自分を見つけられたからと
ても満足していた。

「摩訶不思議」
 途中でアコウの大木を仰ぎ見たりしながら、2時間半ほどかかって(かなり
のんびりタイムだ)滝のあるところに出た。到着前には水の音が近くなるの
で、もう着くか着くかと思っていたためか、ちょっと長く感じた。比較的新しい
靴跡を目にすることがあったが、結局誰にも会わなかった。

 なんだか不思議な感じのするところだ。広い岩盤が目の前にバーンと立ち
はだかり、細めの滝が幾筋か流れている。流れ落ちた水は翡翠色をたたえ
た静かな滝壺に吸い込まれていく。あたりにはサツキが群生している。花咲く
ころは、どんなだろう。

 滝が岩の上を流れ落ちるさまは、楕円をした水の輪っかが次々と途切れる
ことなくすべり落ちていくようで、見ていて飽きなかった。同じようでいて、ひと
つとして同じ水の輪っかはない。それらはやがてひとつのたまりに融合する。
どんどんどんどん新しい流れがやってきて、ひっきりなしに合わさっていく。合
わさって旅を続け、更に大きな「たまり」にのみこまれ、再生の時を待つことに
なる。

 などと、滝壺に散らばる岩のひとつに腰を下ろしてぼんやり考えつつも、時間
もなくなってきたので、お湯を沸かしてコーヒーを入れ、買ってきた焼きそばパ
ンをほおばるのだった。
 余談になるが、今回お湯を沸かすためのガスカートリッジを調達するのを忘
れたままでいた。モッチョム岳に登る前の日の夕方(ウコン作業終了時)に思
い出し、このあたりで入手できるところがないか訪ねると、じゃがスタッフさん
曰く、
「前に、拠点に置いていってなかった?」
そうだった。飛行機には持ち込めないので、残ったカートリッジはいつも誰か
に無理やり引き取ってもらったり、あるいはキープしてもらっていたりするのだ
が、拠点に預けたのは多分去年の夏以前のことだったから、ころっと忘れて
いた。とっておいてもらってたのか。ありがたや。 あの時の自分の行動が、
後に自分の役に立つことになろうとは、考える由もなかった。

 往路より1時間短縮して、1時間半で帰ってきた。午後2時。日が照りつける
尾之間温泉前に出ると、にわかに俗世に帰ってきた感じすら覚えた。やはりち
ょっと違う空間だった。蛇の口滝。
 
 昼間にここの温泉に入るのは初めてだった。洗い場にはまだ首もすわらない
ような赤ちゃんとおかあさんがいた。お母さんは丁寧に丁寧に赤ちゃんを洗っ
ている。かなり熱いお湯なのに、かけ湯をしてもご機嫌な様子だ。きっと馴れ
ているのだろう。
 生まれたときからこの土地の湯を体にしみいらせて育っていくこの子は、文
字通り島の自然の1部であると言えるのかもしれない。大きくなって、この子
がそんな風に思うことがあるんだろうか? (あとできいたところでは、『今日
でちょうど3ヶ月』ということだった。)

 
「帰路」 
 温泉から上がり、今回泊まった宿の管理をしている中華料理店で、土産代
わりにタンカンを送る手配をした。もちろん自分で食べる分も大いに含まれて
いる。
 車を走らせながらモッチョムを見上げ、しばしの(?)別れを告げた。次はいつ
会えるんだろう。
  
 レンタカーNAVIに戻ってきた。旅の終わりは寂しいが、屋久島旅の始めと終
わりを過ごす場所ができてから、気持ちも幾分切り替えやすくなったかもしれ
ない。いちごとコーヒーをご馳走になり、空港まで送ってもらって、別れた。

 鹿児島空港で乗り継ぎのために歩いていると、中年の男性に声をかけられた。
いぶかしんでいると、さっき島の中華料理店で会ったと告げられる。そういえば、
そうかもしれない。こんなとき、人の顔をなかなか記憶できない自分を再認識する。
名前もなかなか覚えられない。
 やはり屋久島で知り合った釣り人たちとご一緒で、今からラーメンを食べに行く
から一緒にどうかと誘ってもらった。もちろんほいほいついていって、ねぎとんこ
つラーメンをご馳走になる。 いろいろ話をうかがっていると、その男性はディズニ
ー関連のキャラクターなどを取り扱う商社の社長で、中国や香港、韓国を担当して
いて、帰ったら、すぐに出張とのことだった。世間にはいろいろな仕事をするさまざ
まな人であふれているなぁ。大阪までの機内で、中国の現状など、興味深い話を
聞かせてもらった。

「これから」
 屋久島への初詣の旅も、びゅわっと終わってしまった。今回の旅も、やはり
忘れがたいものとなるだろう。本当は屋久島通いは去年の12月を区切りにしよ
うと思っていたのだが、どうやら実行に移せそうにない。

(おわり)


ジャングル〜♪  ↑↓                                アコウの大木




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