屋 久 島 病 の 日 々
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イソモンとり
2001年6月9日(土)曇り時々雨 夕方晴れ
今回の旅では屋久島で初めての山小屋泊をする。ひとりで無人の山小屋
に泊まるのも初めてなので(というか、山小屋自体あまり泊まった経験がな
い)、ちょっと緊張している。思わず握りこぶしなのだ。
ぽつぽつと雨が落ちてくるが、続かずに明るい曇り空。
山泊の買い出しをして、喫茶店で簡単にトーストの昼食を済ませた。熱い
コーヒーでひと息。今日はゆっくりして、山行きは明日以降で考えている。
ガイドのKさん宅を訪ねた。いつも誰がしか訪問者がいることが多いが、やは
り今日も研修生の若者1名。
林の中にある新居のお風呂が完成していた。
Kさんがこつこつ石をつなぎ合わせて作ったそうだ。ちょうど初めてお湯を
沸かしているところだった。熱源は風呂専用の薪ストーブ(カナダ製)。少し
時間がかかっている様子だが、みんなにこにこ見つめている。
「入っていきませんか?」
とすすめてもらったが、とてももったいなくて、遠慮した。
前回お邪魔したときにはハシゴで2階に上っていたのが、立派な階段もつい
ていた。着実に完成へ向かっている。ガイドの仕事を始めてから時間がとれ
なくなり、職人の手を借りることも増えたが、元畑、すでに林になっている土地
を、ユンボで整地するところから始めていると聞いて、口あんぐりだ。
望む姿に向けてやるべきことを明確にし、具体的に積み上げていく仕事ぶり
が、目の前でゆるぎない形となって現れている。この家自体が、Kさんのメッ
セージのような気がした。
その後、『イソモンとり』に連れていってもらった。『イソモン』とは『磯物』のこ
とで、食べられる磯の生き物全てを言う。だが地元では『イボアナゴ』のみを
指す場合もあるらしい(以上、うけうり)。潮の満ち引きの差が大きい大潮あた
りの時期に、引き潮をねらって海の恵みをいただきにいくのだ。
到着したのは某港。滑らない足袋を借りて、テトラポットに張り付いている貝
目がけ、先が平たくなっていたり、鍵状になっていたりする鉄の棒(『クシ』と呼
ぶらしい)を使って採る。
ごつごつした磯のあたりでやるのかと思っていたので、テトラポット群を前に、
ちょっと拍子抜けしてしまった。
と、ともかく開始!Kさんの妻kさんは、3歳の息子Wくんと犬一匹とともに待って
いるので、Kさん、研修生とともにいざ、テトラポットへ。ひょいひょいと渡っていく
二人の後ろからややへっぴりごしでついていく。
追いついて、Kさんが示した先を見ると、テトラポットが重なり合ってくぼみに
なっているあたりに、変なのがびっしりくっついていた。
「カメノテです」
おお、噂に聞いていたが、これがそうか!!と感動すら覚えるそれは、やはり
その名の通り亀の手の先をちょんぎったような形状ではりついている。
「こうやって採ります」
続いてKさん、がりっと棒の先ですばやくこそげおとした。連なってはがれる
あわれなカメノテたちよ…。(わりに簡単そうだ。)
Kさんたちはもっと足場の悪そうな方に行ってしまい、いよいよほんとに始まり
なのだ。覚悟してね、カメノテちゃん。
だが、その『覚悟してね』は、カメノテさんたちにとってまさに受難の幕開けだ
った。
がりっとやってみた。が、はがれない。何度もがりがりやるが、やはりはがれ
ない。そのうち誤ってカメノテ自体をぐちゃっとやってしまう。あああ、ごめんなさい。
やがて、張りついたままぐちゃっとなってしまったカメノテさんたちが増えてい
った。食べられもせずそんなになっちゃったのでは浮かばれない。
ごめんごめんと謝りながらも続けるうちに、少しずつコツが飲み込めてきた。
相手も生き物。『警戒される前にすばやく!』がポイントか?いたずらにつんつん
触らず、ためらわないで一気にこそげる!こそげる!こそげる!
・・・いつの間にか夢中になって採っていた。
途中で生食もしてみた。ぷりぷりした身と塩味加減がまことおいしい。
手を休めて見上げると、kさんとWくんが犬と一緒に遊んでいる。
青空が広がり、後ろで山が輝いていた。
声がかかって上がると、私以外は大漁大漁。いろんなイソモンが入っている。
バケツにごっそり入れて、持って帰った。
Kさん宅で、焼いた貝などをビールとともに食す。
「あ、寄生虫」
妻Kさんが焼きあがった貝を開けて、言う。確かに何か細長いものが寄り添って
いた。
「焼いてるから大丈夫だよ」
・・・そういえばさっき生で食べたとき、全然気にしてなかったぞ・・・。
研修生くんと幸せを分かち合いながら、いつまでも食べていた。

kさんとWくんと犬の雁(かり)