26氷河クルーズ

2002年 8月8日(木) 雨

 ユースを午前6時30分に出る。待ち合わせのキャプテンクックホテルへ
徒歩で移動。あかねずみさんがどこからかベーグルや温かい飲み物を調
達してきてくれ、迎えにきたカヤック会社のバンに持ち込んで、出発〜。
 
 ヒルトンでふたりの少女をピックアップ。十代半ばくらいだろうか?親が
参加させたのかな?ふたりともあまり多くを語らず。 
 
 その後、ちょっと迷いながら住宅街にあるお家に到着。たーくさんの荷
物と男性2名、女性2名、子ども2名。勝手に父親と娘夫婦+その子ども、
及び娘の妹とその子どもという関係を推測。更に娘夫婦の夫はマスオさ
ん的立場と勝手に決める。
 
 驚異的に荷物が多いので、バンの屋根に積み込むのにかなり時間が
かかる。どうやらエンジン付きのゴムボートもあるらしい。8日間(だった
かな?)のバカンスだそうだ。移動手段としてこのバンを利用したのだ
ろう。
 
 へえ〜、ボートでさすらうのか〜、さすがアラスカ、遊び方が半端じゃな
い!…と感心していたが、到着した湾で、クルーザーに再び驚異的大荷
物を詰め替える姿を目撃。なるほど、考えてみれば、小さな子どもを連れ
て屋根のないボートでキャンプするはずもないのであった。

 話を戻し、やっと全ての荷物を積み込んで、出発。マスオさんはとても愛
想が良く、周りの人たちに絶えず話しかけていた。この時点で久米弘似の
彼を、勝手に「久米さん」と命名する。バンの中でかなり待たされたので、
ちょっと停滞していた気分も、久米さんのおしゃべりでほぐれていく。
 「日本のどこ?父さんも日本に行ったことあるよね?」てな具合に。

 道路に面した崖の上にドールシープを発見。久米さんがドライバーに声を
掛け、停車させてくれた。デナリでは、双眼鏡でのぞいても、ほとんど白点
だったドールシープ。あかねずみさんに「ここらでは近くで見られるかも」と
聞いていて楽しみにしてたのだった。通り過ぎたポイントへ、カメラをつか
んで駆け足で戻る。

 うおおお、肉眼でも姿形がわかるほどよく見える。更にカメラで迫ると
親子らしい群れが認められた。
その後も動物園?(広〜い土地に柵や檻が点在し、その中に各種動物
がいる)に立ち寄ったりしながら、午前10時、目的地ウィッティア(プリンス・
ウィリアム湾)に到着。予約してあったB&Bは正午までチェックインできな
い。冷たい雨がそぼ降り、辺りにちょこっとだけあるギフトショップやカフェ
で時間をつぶした。が、しかし、正午になっても部屋の準備は整わず、そ
のまま26氷河クルーズの乗り場へと向かった。
 
 「26氷河クルーズ」とは、文字通り、湾内クルーズのコースから眺めら
れる氷河が26あることに由来する。
雨にけぶる港を船は出る。2階に分かれた客席はフロアいっぱいにテー
ブルが配され、食事でも取りながら…という風情である。とにかく窓際の
テーブルを確保し、あとは甲板に出て、動物観察をしようともくろむも、外
は風雨吹きすさび、相当寒い。よって、テーブルを拠点に、氷河や動物
観察の時のみ外に出る作戦に切り替えた。
 
 船内は満員。壮年の旅人3人組と相席になる。夫婦ひと組に、友人の
女性のその3人は韓国人医師で、大学の同窓会にはるばるアラスカま
でやってきたそうだ。だが、予定していた宿泊先が火事になり、一同に
会すはずだった同窓生たちは宿泊先を振り替えられてちりぢりバラバラ、
各々のルートをたどることになったそうだ。気の毒なことだ。それでも旅
を楽しんでいる様子で、ソニーのビデオや、望遠レンズ付きカメラを用意
し、観察態勢も万全だ。

 とりあえず、テーブルで無料のコーヒーやらをすすりつつ、窓外を観る。
船内は暖かで、窓ガラスが曇るかと思いきや、案外視界はきく。
 
 まず目の前に現れたのはミツユビカモメのコロニー。崖が白っぽいな〜
なんて思いきや、近付くにつれそれらは点々と浮かび上がり、やがて脳が
鳥であることを遅ればせながら認識した。「うじゃ〜〜〜」いるわいるわ。
ある種恐ろしさすら感じさせる光景だった。

 デナリのシャトルバス同様、ここでもあかねずみさんがいちはやく生き物
を見つけてくれたり、説明してくれたりと大活躍。いきなり「Sea Otter(ラッ
コ)!」と波間に浮かぶラッコを見つけてみせて、向かいの韓国旅人も嬉し
そうだ。他のテーブルより、10メートルくらいは優勢かも。ふふふ。

 ちなみに、「ラッコ」の英単語は関西弁で覚えるとよいらしい。「シーオッ
ター(おった〜)!」ふーむ、完璧なレクチャーだ…。頭と足の先をぴょこん
と水面から出しているので、だんだん見つけられるようになってくる。

 浮かぶ氷原の上に、横たわるアザラシたち。後ろに広がる森の緑。
 やがて、立ちはだかるグレイシャーブルーが目に飛び込んできた。なん
て青だ。ソーダアイスみたいだ(こんな例えでごめんなさい)。時を閉じこめ
た青。

 山の上から長い旅をして、海へと至るその到達点を、今目の当たりにし
ている。でも、旅は本当は終わらない。海と混じり合った氷河は、蒸発し
て雲となり、雨や雪となって山に降り、また山肌を運ばれるのだ。時の流
れと呼ぶにはあまりにも壮大だけれど、それもまた時間なのだ。確実に
流れている。繰り返されながら。気持ちが追いつかないけど。

 一度だけ、氷河が海に崩れ落ちる音を聞いた。今までに一度も聞いた
ことがない音が、崩れ落ちるさまとうまく一致しない。それは何かの合図
のようだった。そして、無音のうちに氷河は海に飲み込まれた気がした。

 遠くなる氷河が名残惜しくて、寒風雨の中、甲板からなかなか離れら
れないでいると、「Whale!(ホエール)」という声が聞こえた。クジラだ!甲
板にいた人々はどやどやとそちらに集まる。クジラの背びれが見え隠れ
する。さっさと船内に戻らなくてよかった〜。
テーブルに戻ると、韓国人男性は、クジラをビデオにおさめたと、とても嬉
しげだった。見せてもらうと、確かにばっちり映っていた。 

   
 クルーズを終え、宿泊先のB&Bへ。マンションの一室がまるごと借りら
れた。15階なので見晴らしもよい。窓の外の山肌に氷河が拝めたりす
る。ウィッティアの住民の半数以上がここに住んでいるらしい。学校もこ
じんまりと隣にある。

 戦時に軍港としてスタートしたこの地は、ガイドブックにも「特に見るべ
きものはない」と書かれてしまっているように、全体的にうらぶれた雰囲
気が漂う。小さな港沿いに観光客相手の店が数軒。港の反対側は山が
迫る。

 1LDKのB&Bはとても快適だった。この旅で一番クオリティーが高いと
言えそうだ。清潔で広い空間、ふかふかのベッド。夕食の時間までまだ
少し間がある。とりたてて何かをする必要もなく、放りだされたようにぼ
んやりとする。

 やがて、宿泊所の仲介を担当する女性が紹介してくれた、港の中華料
理屋さんに行ってみることにした。外食しようと思うと港まで出るしかない
のだが、その数軒のレストランの中でもここがおすすめらしいのだ。のん
びりと15分ほど歩く。

 店の前には木の柱が門のように2本立っている。それぞれに「日本大
将軍」「中国大将軍」と彫られている。…うーん…。ま、いいか。入ってみ
よう。店内に客は1人。野菜炒め、エビ焼きそばと、紹介してくれた女性
が一押しというかき玉スープを注文。
 
 …おいしいではないですか!アンがちょっと甘めだけど、しつこくないの
でもりもり食べられる。どれも野菜がたくさん入っていて、旅の身にはあり
がたかった。多めの量をふたりでたいらげ、ビールも飲んで(私だけ)、
満腹、満足。

 最後にフォーチューンクッキーが出された。中を割ってみるとこんな紙片
が入っていた。

〜You will have an enjoyable experience in the near future.〜

明日も楽しみだ〜。

 帰りに小さなホテルの土産物屋をひやかした。自分用に、小さなドリーム・
キャッチャーを買った。(6ドル。帰りの空港の土産物屋で同じようなものを
見ると、5倍の値が付いていたのには、びっくり。)

 部屋に戻ってゆったりシャワーを浴び、絵はがきを書いていたら午前1時
40分。ベッドに入ると、すぐに眠りが押し寄せてきた。氷河の崩れ落ちる音
が聞こえてくる気がした。

(続く)

ミツユビカモメうじゃ〜



ソーダアイスのような…

コメント(旅の道連れ、あかねずみさんより)

キャプテン・クックは、1度だけ新婚旅行で泊ったのをいいことに、よくトイレ
を借りに行ったものだ。目立つので、街を歩く時のよい目印にもなる。ゴー
ジャスなトイレは、お気に入り。ダウンタウンのグローサリーではろくな食料
が買えないが、ホテルの奥で暖かい飲み物や、おいしそうなベーグルが買
えた。

ヒルトンで拾った少女たちは、とても軽装でびっくり。ま、カヤックの会社で
装備は借りられるんだろう。ちょっと話かけたら、カリフォルニアとテキサス
から来たと言ってた。寒さがこたえないのかぁ?

しかし、その後の展開はすごかったね。久米さん似のおじさん一家の荷物
の量は、信じがたいものであった。積みこみにたっぷりと時間がかかった
けれど、あまりのどはずれぶりに驚いていて、いらいらすることもなかった。
スワード・ハイウェイのあの崖は、ほぼ毎回、ドール・シープを見ている。し
かも、いつもかなり低い位置にいるので、アラスカでも、ドール・シープ観察
の一等地。たいてい、ムースも湿地で見かけるのだけど、今回はいなかっ
たね。

ウィッティアは初めてだが、何度か行ったことがあるスワードと似たような
感じだろうと思っていた。が、ここは、予想外にさびれていた。以前は、トン
ネルが電車しか通れず、車もバスも電車に積みこんでトンネルを通ってい
たはずだが、最近、車が直接走れるようになったようだ。でも、片側交互な
ので、しばし、待たされる。このへんもさびれている理由か?

スワードのほうがアクセスがよく、しゃれた観光地だ。
たいていの観光客は、バルディーズに直行して一泊、そこからクルーズし
てウィッティアで降りて、そのままアンカレジに抜けてしまうのだろう。宿は
小さなさえないホテルと、B&Bが2つ?
街そのものが小さく、建物も少ししかない。天気がよければ、夕方までの
んびり散策して・・・のつもりが雨で停滞。カフェで雨宿りしていると、冷た
い雨の中、カヤックが対岸沿いを数艇どんどん進んでいくのが見えた。あ
の少女たちもいるだろうか。こんな天気では辛いだろうな。カヤックが明
日でよかったと思った。

ようやくクルーズの時間となり、船に乗り込む。合い席の韓国人観光客と、
日本語と英語で会話。おじさん一人だけ日本に留学していたとかで、流暢
な日本語を話す。女性一人に、「原田康子を知っているか?」と聞かれた。
残念ながら知らない。有名な作家らしい。彼女は、エレジー(日本のタイト
ルは挽歌)を読んで、ものすごく感動し、何度も何度も読み返しているとい
う。いろいろ知りたいのだが、韓国では原田康子さんの情報が得られない
から、なにかわかったら教えてと、宿題を出された。帰ってからネットで検
索したりしたが、彼女に聞いたのと同程度の情報しか得られなかった。い
ずれ、挽歌を読んでみなければ・・・

いつもは完全装備で甲板でがんばるのだが、悪天のため、氷河に接近し
たときだけ甲板に出て、あとは船内。
鳥は、数はたくさんいるけれど、種類は少ない。でも、ラッコは愛想がよかっ
たし、ミンククジラが見られて、収穫大。天気がよいと、氷河の崩壊ももっと
頻繁に見られただろう。

氷河や、いろんな生き物に満足して帰り、ようやく宿へ。今回はオン・シー
ズンの旅で、航空券が高かったし、セスナにクルーズにカヤックと大盤振
舞いなので、せめて宿代を削ろうと、アンカレジの3泊はユース。デナリで
は雨のテント泊・・・
ここが唯一、きれいで快適な宿。久しぶりの広い空間。調度もなかなか素
敵だ。しかし、その美しい広い空間いっぱいに展開される荷物たち。

B&Bの世話係の女性お薦めのレストランは、はっきりいって、外観があま
りにも怪しくて、本当にこんな店でおいしいものが食べられるのか、はなは
だ不安であったが、予想外においしい料理が食べられた。それにしても、
なんでまた、あんな妙な柱を立てているのか?中華料理だから、中国大
将軍はまだしも、なぜに日本大将軍なのか??店の経営者は韓国人だ
し・・・よくわからん。

ホテルの土産物屋の女性はとても親切だった。明日、カヤックに乗るとい
うと、わざわざ売り物の地図の封を切って、説明してくれた。そして、新聞
の天気予報も教えてくれた。
雨もあがり、明日は天気よくなりそうで、嬉しい。





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