またたび日記

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I DON’T MIND,IF YOU FORGET ME.

2002年3月17日(日) 晴れ

 「これって忘れないでってことじゃん」
連れの言葉に、素直に同意した。
 
 ずっと気になっていた展覧会にやっと行けた。奈良美智展。芦屋市立
美術博物館にて。横浜でやってるときから気になっていたのは、奈良氏
の絵が好きなこともあるが、それよりむしろ、展覧会のタイトルにあった。
I DON’T MIND,IF YOU FORGET ME.
目にしたとき、心の弦が、ビヨーンと大きく弾かれた。それからときどき
その言葉は日常の生活の中で浮かび上がり、私に寄り添っていた。
仕事をしながら、歩きながら、ご飯を食べながら、反芻する。
I DON’T MIND,IF YOU FORGET ME.

「忘れてもいいよ」
というメッセージは、
「忘れないで」
というメッセージより、切実に響く。
「でもほんとに忘れられても、大丈夫なの?」
問いがぐるぐる頭の中を回っていた。
 
 展覧会ではアクリル絵画の他にオブジェやドローイングが展示されていた。
入り口から入ってすぐのオブジェは、直径2mくらいのコーヒーカップの中に、
目を閉じたこどもの顔が数個積み上げられている。閉じた目から少しずつ
水が流れて、カップの中にたまっていくので、下の方の顔は涙に浸かって
いる。タイトルは『Fountain of Life』

 そして、おなじみのこどもの絵。かわいくてこわいこどもたちが、カンバ
スの中にひとりずついる。にらんでいる。目を閉じて微笑んでいる。タバコ
を吸っている。血を流している。空を仰いでいる。どの絵も、ひとりで。
 
 その子と向き合えば、それは、自分と向き合うことになった。いろんな
顔のこどもたちは、私たちの中に潜む断片たちであるような気がした。
たとえばあの子はどうだ。穴から這い出してこちらをにんまり見ているあ
の子。大人びた表情を作るあの子。水溜りに浸かりながら、空(くう)を見
つめるあの子。
心当たりが、確かにある。

 こいぬもいた。涙の水溜りに集うこいぬたちのオブジェ。壁に首を突っ
込んでいる後ろ姿。絵本『ともだちがほしかったこいぬ』で、ほぼ初めて
奈良作品に触れたわたしとしては、懐かしさすら覚えた。

 インターネットで募集したキャラクターのぬいぐるみが、ぎっしりぎしぎし
と集まって、今回の展覧会のタイトル文字を形作っていた。
 ぬいぐるみたちみんなで「わすれないで!」って言ってるの?問いなが
ら進む。

 ドローイングのコーナーも楽しかった。走り描きした絵と文字が、奈良氏
の軌跡の一端を伝えていた。あるものは水道工事のお知らせの裏面に
描かれていたりするのだ。思わずメモってしまった言葉もあった。

 展覧会の図録の最後に、こう記されていた。
 『I DON’T MIND, IF YOU FORGET ME.
  BECAUSE, YOU NEVER FORGET ME.
  I NEVER FORGET YOU.』

  ドローイングに走り書きされていた(思わずメモってしまった)言葉。
 『I hope you had the time of your life』 

 生きる者にくっついている根源的な孤独を想う。だからこそ人は周囲と
交わり、生きるよすがを探しながら旅を続ける以外ないような気がする。
 こわくてかわいいこどもたちが私に運んできてくれたメッセージは、
そんな感じであった。

 (なんにでもメッセージを読み取ろうとするのは、私の悪い癖です。)

 (おわり)
  

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